猿との苦難



<第二回>


 少し前からヴェランダの縁(訳注1)に座って、庭を眺めながら茶を飲んでいたのだが、俺の小さな頭の中は何かうまく回っていなかった。実際、蘭、アロエ、百合や他のいくつかの植物に目をやれば、俺の思いつきが植えさせたそれらが乱雑な雑草に半ば埋もれており、その落ち度は庭への関心がなくなってしまったのだからまったく俺の責任でしかなく、それは大して悲しいことではなかった。ただ、夥しく草が繁茂したその中のあちこちに、スーパーマーケットなどの店員が買った物を入れてくれる白いプラスチックの袋を発見し、それが、俺には理解できないのだった。妻がいなくなって、以来俺の日常生活は主にスーパーマーケットに依存しており、その手の袋は知らない物ではないのだが、庭に投げ捨てた覚えはまるでなく、その証拠に、それらはすべて家の中に散らばっていた。疑念は納得させるしかなく、ついに俺は立ち上がり、足には庭用サンダル、草の匂いにも薔薇や泥との不快な接触にも動じずに植物の中を探検した。身を屈め、身の丈ほどもある草の中に道を作っている最中に、叫び声……。うわっ、ちょっとどこじゃねぇ! それらは茂みに隠されており、縁側からは見えなかったのだ、まず紙や冷めた料理の残り物(訳注2)でいっぱいになったプラスチックの袋、続いて様々な壜、新聞に雑誌、煙草の空箱、手袋、定期券、空の財布、ゴムボールなどの小さな物から、錆びた三輪車、テレビ、振子時計などの比較的に嵩の張る物まで、みんな錆び、腐り、壊れ、剥げ、つまり町のゴミ捨場と成り下がった俺の庭を発見したというわけだ。途端に、俺はかっとなった。当然である。三月疎かにしていたからといって、庭を、それもご近所の庭をごみ捨場にする権利はないのだ! いくら妻が海外留学したからといって、それは理由にはならない、馬鹿にするにも程がある! このままじゃすまさねぇ! ああ、そういうつもりかい? ようし、対決だ! このガラクタすべて、おまえらがやったとおりに処分してやる、塀越しに道路にすべて投げ出してやる。ここにこれを、このゴミを押しつけたのはおまえらだ、見分けがつくだろう、自分の物を拾え、てめえで始末しろ! 恥を知れ、虫けらどもめ! こう言いながら、足元にあった三輪車を掴み、頭上高くそれを持ち上げて、投げようとしたまさにその時、通りから放り上げられた小さな壜が俺の上に飛んで来て、額にぶつかった。反射的に、俺は両手で顔を覆い、バランスを崩し、うわぁーっ! と叫んで、雑草の茂みの只中に尻餅をついた。結果、俺は振りあげていた三輪車を顔面全体で受けとめ、目に入った錆のせいで酷い苦痛を味わった。どうやら容器には砂糖入コーヒーの飲み残しが入っていたらしい、顔や手が何かべとべとする。計測二十八秒後、焼けつくような痛みを克服してふたたび立ち上がり、雄叫びをあげながら塀まで全力疾走し、その上に手をかけて這い上がり、瞬きしながらその辺りにいる容疑者を探した。左手にゆっくりと自転車で、蛇行し、楽しげに喋りながら遠ざかっていく二人の高校生を発見した。注意をする代わりにふたたび雄叫びをあげたのだが、連中、気にすることもなく、振り返ることもなく、逃げる気などさらさらなく、のんびりと着実に自転車を蛇行しつづけている。無視しやがって、おい、肛門野郎! 叫んで、拿捕するために追跡しようと、サンダルを脱ぐ間をも惜しんで部屋に飛び込み、その勢いのまま廊下を抜け、玄関へと突進した。力まかせに扉を開いて、そこで、吃驚して飛び上がる。背の高い老人、おそらく七十歳くらいだろう、鼻にサングラスを引っ掛け、ハンチングをかぶったのと鼻を突き合わせたのだ。なんだなんだ? 家の玄関の前に立っているのは何か用があるからだろうが、さて俺に用があるのは新聞の集金、生命保険か宗教の勧誘、鉢植えの花売りくらいに限られ、また、はっきり言って、この手の連中はひどいお門違いをしているのだ、というのも、連中が現われるたびに、俺は慢性的な怒りを爆発させるかのように立て続けの罵声をもってもてなすのを決まりとしていたからだ、「てめえの口上を聞く暇があるように見えるか? 死ね死ね死ね死んでしまえ! 目を噛んで窒息してしまえ(訳注3)!」――そしておそらく、うちの戸を叩くのは時間の無駄だ、死んで地獄へ落ちろと言われるばかりだ、という噂が広まり、奴らは示し合わせたのだろう、ともかく、こうした訪問はいつからかまったくなくなったのだった。この老人に関して言えば、一見して、その手合いではないようだ、だとしたら何者だ? 突然、俺が手厳しい批評に励んでいたある政治結社に極めて類似した集団を辛辣に演出したことを思いだしたが、その結果、映画の封切りしのしばし後、漢字がやたらめったら多い脅迫状を受け取り、同時に見知らぬ連中が家の周りを徘徊する、そんな極めて不愉快な体験を当時したのだが、この訪問者はその連中だろうか? でも、それにしては年を取り過ぎているし、それに時間が経ちすぎている。じゃあ何だ? べたつく顔を忘れ、呆気にとられて、しばしその場に立ち尽くしていると、低音調性の断続的な音が、ガガガガガと、まるで擦り切れたレコードから出てくるように聞こえて来たが、耳をそばだてると、その音源が老人の喉以外にはないと究明することができた。何だ、こりゃ? と考えていると、音は大きくなっていき、ごほんごほん、ごほん、ごほんごほん、ごほんごほん……、と喉から絞り出される咳払いのようなものに変わり、次いでこの見知らぬ男は多少なりとも普通の言葉を発するに至った、「えへん、すみ……、すみ……、すみませんが、おほんおほん……、こちらは、えへん、こちらは佐志先生のお宅で?」「ああ、俺がそうだけど」「ああ、そうですか。えへん、おほ……、初めまして、おほんおほん……、わたしは……」、そこで、激しい咳込みは深刻なものとなり、男は体を二つに折り、戸口に四つん這いになって胸を押さえ、苦しそうな様子、従って俺は彼を立たせ、家の中に運び、廊下に寝かせなければならなかった。
 流しで顔を洗い、茶を淹れて戻ると、すっかり落ち着き、散らかった中、畳にきちんと座った訪問者を見つけた。彼は不明瞭に言った、「ああ、ええ、んん、いや、おかまいなく」、そして俺が前に置いたばかりの茶碗を口に持っていき、一口飲んで左手に置き、右手を添えて、俺の家についてお世辞を言った、「まったく、ああ、んん、静かでよいお住まいですね」、そして周囲を見回して“まぐさ石”(訳注4)へと目を遣った。俺も彼の円を描く頭の動きに従って、辺りを見渡した……。言うまでもない、よい住まいだ、うん、すなわち板の剥けた壁、毛羽立って赤茶けた畳、裂け、ずたずたになった紙の引戸。酷い世辞だな、爺ぃ……、彼を振り返り、その瞬間、例の肉食虫が、連中が巣食っていると見ている引戸の所で、彼の背中を集合場所にするという碌でもない考えを抱いたことに気づいた。その光景に、もはや落ち着いていられなくなったのは俺で、尻がむずむずしていたのだが、老人が唐突に言葉を発した、「ああ、まず最初に、先生、このたびの不意の訪問の、えへん、無礼をお詫びしなければなりません。そこで、おほん、自己紹介をお赦しください。わたしはカジヤマと申しまして、映画のプロデューサーをしております」こう言って、彼は焦りがぎこちなさを抑えている体に引き渡した指を揺り動かし、だんだんと粗雑に、また短絡的になる、しかし緩慢な動作で、傍らに置いた封筒から書類の束を引き出した。
 「わたしに関しては、経歴、その他資料はこの書類にすべてありますので、お読み……、あん、お読みいただければと思います、本日の訪問の目的は……、ごほんほん……」また発作かよ、と思って、緊張したが、違った、すぐに、「わたしが参ったのは、佐志先生、ぜひシナリオを執筆していただきたいからなのです」、後はすらすらと言った。シナリオの依頼。言い換えれば、仕事。いやっほぉ〜、仕事だ! プロデューサー様、あなたの申し出を受けることは何て喜びでしょう、でも……、大喜びするには早すぎる。実際、このような知らない奴から来る、またひでぇ目に合わないという保証のない依頼の場合、ほんのわずかな報酬、あるいはまたまるで手に入らない、後日いかなる連絡もとれなくなる、没になる、等々、不安だらけなのだ。「お受けするのはかまいませんが、せめてもう少し詳しいところを……」慎重な言葉遣いで情報を集めようとしたが、相手はそれを遮った、「まず先生にお話しなければならないのがそこであることはいうまでもありません。この企画はわたしの中で十年来温めてきたもので、うううんうう、ちょうど二十年前に製作した映画の続編となると言ってもよかろうかと、おほんほん、しかし今回の場合、根本的に異なる今日的な社会問題を取り扱いたいのです、例えば、ううんむ……、環境問題、少年犯罪、老人福祉制度、ここにしか引き合いに出せないものを、むっほんほん、おほんほんほん……、しかしながら、この映画は大衆映画でもありまして、ごほんごほんん……、――ふたたび痙攣性の咳の発作が奴を不利な状態に追いやった――、ごほん、言わば、これは、ごほんごほん……、恋愛、ごほんごほん……、映画に社会、ごほんごほん……、問題……、ごほんごほんごほごほ……」彼は息苦しそうに咳払いをした。「お願……、いずれにせよ、ほんほん、この書……、書る……、ごほん……、ああ……、書類を……、ごほっ……、読んで……、おへ……、あはんはん……、んじをごほっごほっ……、早急に……、あはんあはん……、くださるよう……、あはんんんん……」今では咳があまりにひどく猛威を振るったので、彼はクッションから落ち、畳にひっくり返るほどで、悲惨な様子で苦しんでいた。おそらくカジヤマの咳によって部屋の空気に生じた波を感知したのだろう、先に引き戸にくっついていた虫が興奮し、彼の頭の周りをぶんぶんいいながら旋回して、俺を大いに不安がらせた。そこで彼を隣の小部屋に連れて行って寝かせ、俺は資料を読みはじめた、そう長い間もなく、そのすぐ後に呼ばれるのを聞いた。おや、毒針を逃れたのか? 運のいい爺ぃだ! 俺は襖を開いた、「お見苦しいところをお見せしたことをお赦しください。御覧のように、あまり気分が優れませんので、今日は簡単な紹介に留めさせていただきます。どうぞ書類をよく御検討ください、数日中に私から御連絡申し上げます。失礼致します」――そして帰っていった。

訳注1 縁側
   2 弁当殻
   3 原書では“ええ日選んで目ぇ噛んで死 
    ね”となっている。
   4 欄間






 ひひひひひひ。大殺戮だ! 殺虫スプレーを買って来て、たっぷりの分量――指定の二十倍――を居間に散布して隙間なく密閉し、次いで小部屋への後退作戦を取り、殺虫剤と一緒に買ってきた二人前の中華弁当を食べながら、俺はカジヤマが持ってきた書類を読みはじめた。
 ホチキスでとめられた書類はカジヤマカゲノリが映画界で、製作会社に始まり、二十年以上前に独立プロダクションを設立するためにそこを辞した、半世紀のキャリアを持つ古株であることを俺に教えた、最前仄めかした作品も、俺自身は見ていないが、“社会派”に類別されながら画期的大成功を収めた作品という珍しいケースとして評判になっており、ある年齢以上の人――同業者だけでなく――は誰でも知っているということで記憶されていた。たぶん、本物の仕事だ、俺は独りごち、飯と、カジヤマの経歴といっしょになっている趣意書を大急ぎでさっさと片付け、梗概を熱心に検討した。

 地方都市の環境局職員、若く有望なキタガタリュウイチはある日偶然に環境局の極秘文書を見つけ、また地元の廃棄物処理工場の環境への影響に関するいくつかのデータが改竄されたのを知る――その頃、将来の建設が住民の間に大論争を巻き起こしていた。彼は書類をコピーし、家へ持ち帰る。また一方で、彼は以前から疑っていた役所といくつかの企業の癒着に関する反論の余地のない証拠を手に入れる。工場建設計画に対する反対運動は最高潮に達し、リュウイチは上司からその代表者との調停役を任された。公的立場を守るために冷ややかな言辞を弄さねばならぬことに彼の良心は痛んだ。ある日、彼は局長の家に個人的に招かれた。実は彼は局長の一人娘、ヨウコと交際しており、両家の両親は彼らを婚約者と考えている。夕食の席で、局長は人類のあまり愉快ではない未来について雄弁に思索を開陳する。紛争はリュウイチを引き裂き、休職を決意させるに至る。電話による出会いの秘密クラブ(訳注1)で、彼が少女アスカと知り合うのはそんな時であり、彼は連れ込み宿へ彼女を連れて行く、そこで、彼女と寝ようとしたまさにその時、アスカの友達である少年、リョウが現われた、彼は脅迫して金とクレジット・カードを要求した。言い方を変えれば、罠(訳注2)。リュウイチは長時間に渡って交渉、代償を値切ろうと懇願し、ついには奇妙な共鳴が三人の若者の間に生まれる。またリュウイチは少年の母が原因不明の不治の病で苦しんでいることを知る。彼は知っていた、それが現行の処理工場から排出された有毒ガスのせいであることを。しかし彼は何も言うことができず、苦しむ。仕事に復帰すると、彼は中傷された、というのも上司が彼に反対派が利用している漏洩元なのではないかという嫌疑をかけたのだ、そのうえ、ヨウコとの婚約は一方的に解消された。工場の問題は増大し、反対派は市長を解任させる、そして選挙運動の開始は町を二派に分断し、互いにスパイし合い、不法な電話の盗聴、誹謗中傷、多かれ少なかれ公然の買収に没頭した、衝突は至る所で勃発した。危険文書を所持しているリュウイチは両派から疑惑の的とされ、暴力団に拉致監禁され、拷問を受けた。リョウとアスカが彼を救出しに現われ、三人は逃走した、その前に紛れもない武器庫から奪取して、すなわち自動小銃、手榴弾、ダイナマイト……。リュウイチは集会に姿を見せ、聴衆にすべての事実を暴露する。一方、リョウの過激な取巻連は襲撃計画を立て、リョウの反対にもかかわらず、武器を手に、環境局へ、そして処理工場を爆破する。大量のガスと有毒物質が大気中に発散され、住民に深刻な損害を与えた、グループの首謀者と見なされたリュウイチはゆえに警察の捜査の対象となり、同時に町中の憎悪が彼に集中する。絶望のどん底に追いやられ、自殺を決意したリュウイチが当てもなく工場建設予定地となっている埋立地に沿った国道を歩んでいると、局長一家を乗せたメルセデスがやって来る。職場の同僚の一人がヨウコの隣に座っている、二人は固い絆で結ばれているようだった。リュウイチは車道に飛び出し、車を停めて突進する、ピンを外した手榴弾を手に。黒焦げになった車の残骸、四散した肉の破片、血の海、目にしみる煙、道の向こう、遠く沈んでいく太陽。そして最初の計画である、巨大な処理工場建設現場が落日に赤く染まっている、と件の梗概には書かれていた。こりゃ大変だ、さて俺の頭に最初に到来した考えは超大作に関わりあったということだった、ひょっとしたら予算五億を超える作品……。俺の報酬も七百万辺りになろう。うひひひひ。だがちょっと待て、喜ぶのはまだ早い……。かつての大プロデューサー、カジヤマはここ二十年話題に上っておらず、結局、過去の人なのかもしれない、あるいはさらに悪いことに、彼に現われた進行した老化の兆しとともに、想像上の映画の計画について話をでっち上げ、あちこちの家で混乱を振りまくために監視を避けられない状態であり、そして彼の名声がその混乱をよりひどくし、彼の家族を非常に困らせているのかもしれない。その証拠にそこにはこの計画に伴う具体的な詳細――監督、キャスト――が完全に欠如していた。まず当事者のところで確証を入手しなければならないのはそれ。そうして、監督とキャストがほぼ確定していたら、この申し出をまともなものだと結論付ける、反対にクレジットタイトルがぼんやりとしたまま留まっていたり、あるいは無名のお歴々しか出てこないならば、どんな言い訳でもして断るしかないだろう……。
 だからまずは電話をかけて、と独りごち……。しかし部屋の隅に放り出してあった携帯電話(訳注4)に手を伸ばしたその瞬間、煮立った湯を注入されたかのような、凄まじい痛みが首を襲ったのであった。うわぁあああああ!! 俺は喚きながら手を首に当て、胎児の格好に丸まって畳の上を転がった。うわぁあ! うわうわぁああ!いってぇ! いてぇ! しばしの間、悲鳴をあげながら転げまわり、次いでそれは呻きに変わって、おずおずと俺は天井へ目を向けた、例の羽のある肉食動物の飛行隊が俺の上で円を描いていた。うわっぶるるるる……、抑えきれない恐慌が襲い、俺は体を回転させて廊下へ移動し、ひとたびそこへ出たら、後手に音を立てて襖を閉め、大口開けて泣き喚いた。いたいよぉ!

 カジヤマに公衆電話から電話をし、とりあえず監督と配役について問い質すと、彼は――どうやって半分以上の時間を咳の発作か喘ぎに襲われているあの哀れな男が交渉に成功したのか――二つの名前、それぞれ極めて有名な映画監督と現在テレビで人気の若手スターを俺に知らせた。彼が第七芸術の王道でその真価を大いに発揮している間に、まったく俺はこれまで脇道しか通っていなかったのだ、疑問は完全に解決された。次いで脚本家の報酬について尋ねると、そこもまたすべて整っている――最短期間で契約書に署名されれば、奴は俺に言った、当然期待してもよい報酬は払い込まれるでしょう――ようだった……、いや、それ以上に重要なのは、これがざっと見たところ俺が今までに与えられた仕事の中でもっとも重要な作品になるだろうことで、これは大袈裟でも何でもなく、報酬について言えば、これはたいへん満足のいくもの、いや、だからこそ俺は自問した、「ここで俺の代表作にサインしないのか、俺に束の間の社会的認知を齎すのだぞ?」カジヤマカゲノリこそ我が家に不意に現われた神、運命の化身、百日咳の神ではないのか? ブラヴォー! ばんざ〜い! 有頂天になって受話器を置いたが、まだ気にかかることが一つだけあった、つまり原稿の締切期限、というのも電話を切る時、カジヤマは明言したのだ、「もし受けていただけるようでしたら、来月初めに監督、俳優との記者会見の準備をし、そして十五日後にはクランク・インいたします、また先生には今月中に、つまり八月ですが、二週間でシナリオを書きあげていただきます。それは具体的かつ現実的なものでなければならないことを付け加えさせていただきます、またそれについては、シナリオ・ハンティングができ、この仕事のためにインスピレーションを与える郊外の三ヶ所を示した書類をすぐに郵便で送らせます。費用の問題は、わたしが先生の取材に同行しますのでこちらで調整いたしますが、もし取材時にわたしがたまたま東京に留まらねばならないようでしたら、後日、領収書を添付したものをカジヤマプロダクションへ送ってください」 もし俺が間違っていなければ、シナリオ・ハンティングに四日間と考えるとして、脚本を執筆するのにちょっきり十日。これほどわずかな時間でこのような仕事を完成させることができるだろうか? まったくできるような気がしない。ところで、来月俺は家を明け渡さなければならない、よって金が要る、そして義父が俺を追い出さなかったと仮定したとしても、征服地のように俺の家で振舞う人肉に飢えた虫と同居を続けるのはもはや論外であり、要するに、いずれにせよ支えが必要なのだ。ともかく、やるしかないのだが、さしあたってちょっと前から首に疼痛を感じており、手を当てると実際に腫れあがり、炎症を起こしているのがわかった。絶対的優先、それはあのクソッタレどもを排除するために何かすること! そうしたわけで俺は国道沿いの日曜大工の大きな店(訳注4)に行き、業務用の殺虫剤の缶を買ったのだった。

訳注1 テレクラ
   2 原書では“美人局”となっている
   3 原書では“子機”となっている
   4 ホーム・センター




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